1. はじめに
DevOpsは、ビジネスのスピードを加速させるために開発(Dev)と運用(Ops)の組織が密に連携するための概念とその手法のことです。
この概念は、技術の導入だけでなく開発プロセスや組織文化全体の変革にも焦点を当てており、チームがより速く効率的にソフトウェアをリリースできるようにするため、近年非常に多くの企業で取り入れられています。
DevOpsは、品質を保ちながら迅速にソフトウェアデリバリを行うためのツールや開発プラットフォームを整備することでリリースサイクルの短縮化を実現します。
また、単にツールの導入に留まらず、チーム間のコミュニケーションや協働を促進し、継続的なフィードバックのループを通じて、製品の品質やユーザ価値の向上を目指します。
本稿では、DevOpsが何であるか、なぜ重要なのかを解説するとともに、そのメリットと、導入する際の重要なポイントについても詳しく説明します。
また、DevOpsに関連する代表的な技術やツール、実際に成功を収めた事例についても触れ、DevOpsの理解を深めていきます。
2. DevOpsとは何か
DevOpsは、ソフトウェア開発と運用のサイロ化を解消し、両チームが協力してより迅速かつ継続的に製品を市場に投入することを目指す概念やその手法のことです。
ビジネストレンドの変化が非常に激しく、将来予測が困難なVUCAの時代と言われる現代においては、仮説を素早く検証し、ユーザからのフィードバックを迅速に取り入れながらサービスの価値を創出していく必要があります。
2001年にアジャイル開発宣言が公表され、ソフトウェア開発プロセスは、計画とドキュメントに重きを置くウォーターフォールモデルから、柔軟性と速さを優先するアジャイルへとシフトする流れが生まれました。
アジャイル開発は、顧客との継続的なコミュニケーションや変更への迅速な対応を強化し、より短いサイクルでのリリースを目指す取り組みですが、アジャイル開発がソフトウェア開発チームに広く採用される中で、運用との連携には課題が存在していました。
開発チームが迅速に機能リリースをしても、運用チームが開発プロセスや機能を理解してスムーズにリリースや障害対応などができなければ、サービスの信頼性を保つことは出来ません。
このギャップを埋めるために、2009年のVelocity ConferenceにてDevOpsという用語や概念が初めて使用され、認知が広がりました。
DevOpsは、開発(Dev)と運用(Ops)の間の壁を取り払うことに重点を置いており、アジャイルの原則を運用チームにも適用し、開発と運用の協力を通じてソフトウェアのリリースと品質を向上させることを目的としています。
こういった思想や取り組みの中から、継続的インテグレーション(CI)、継続的デリバリー(CD)、自動テスト、インフラストラクチャーのコード化などのプラクティスが多く生まれ、受け入れられています。
これらDevOpsの技術や組織文化の導入により、開発から運用までのプロセスがスムーズに連携し、より速く、より頻繁に、より信頼性の高いリリースが可能となります。
また、システムの障害に対する迅速な対応や、障害発生時のリカバリ時間の短縮など、運用の効率も大幅に向上できます。
DevOpsの爆発的な普及の背景には、クラウドコンピューティングの普及やマイクロサービスアーキテクチャの採用など、新しいテクノロジーの存在も大きく関係しています。
国内外の多くの企業でDevOpsが取り入れられ、テクノロジーの進化と共にその取り組みも日々発展しています。
現在は、BizDevOps(DevOpsにビジネスサイドの参加や協力を促す)、DevSecOps(DevOpsにセキュリティの観点を組み込む)などといったDevOpsを拡張する概念も生まれており、その存在感はますます大きくなりつつあります。
DevOpsの思想や文化を取り入れ、その取り組みを実践することは、変化が激しい時代のビジネスを加速させるために必要不可欠な要素と言えます。
3. DevOpsがもたらすメリット
DevOpsの導入によってもたらされるメリットは、システム開発と運用、さらには組織全体の文化やビジネス競争力など広範囲にわたります。
システム開発と開発チームにおけるメリット
DevOpsの導入を進めることで、継続的インテグレーション(CI)と継続的デリバリー(CD)の整備が進み、コードの変更が頻繁にかつ自動的にビルド、テストされるため、エラーの早期発見や修正が可能になります。これにより、バグが少ない高品質なソフトウェアを速やかにリリースすることができます。また、開発プロセスを可能な限り自動化することで、開発者がよりビジネス価値の中核となる重要な作業に集中できるようになります。
また、CICDだけでなく、IDEやコミュニケーションツールなどの開発者向けプラットフォームを高度に整備する取り組みは、Platform Engineeringと呼ばれて近年のソフトウェア開発の重要トレンドとなっています。
Platform Engineeringは迅速な開発を促進するだけでなく、開発者体験(DevEx)の向上にも寄与するとして非常に注目を集め、国内外でその思想や取り組みが爆発的に広がっています。
システム運用と運用チームにおけるメリット
運用チームにとって、DevOpsはシステムの安定性と運用効率の向上を意味します。継続的なデリバリに関するCICDのような自動化ツールを利用することはもちろん、システムの一元的な監視や障害検知、自動復旧などの仕組みづくりもDevOpsで重要な取り組みとなります。
特に、リアルタイムでの監視とログ分析を通じて、問題を早期に発見し、迅速に対応することが可能となり、システムのダウンタイムを最小限に抑えることができます。
APM(Application Performance Management)は、アプリケーションレイヤの稼働状況把握や障害検知をしやすくするツールや取り組みとして知られ、運用チームが開発チームと情報連携をしながら、インフラもアプリケーションも一気通貫で一元的に監視できるようにします。
組織全体や企業文化、ビジネスに関するメリット
DevOpsは組織や企業文化の醸成にも深く影響を与えます。開発と運用の間の壁を取り払うことで、チーム間のコミュニケーションが向上し、より協力的な作業環境が生まれます。
DevOpsの高度な実践により、チーム全体が一丸となって製品の品質と顧客満足度を向上させていくことができます。
また、製品の改善とイノベーションの促進によって市場での競争力強化を目指すだけでなく、自社のエンジニアの開発者体験(DevEx)が向上し、優秀なエンジニアの採用や定着率の向上にも繋がっていきます。
このように、DevOpsの導入は開発プロセスの効率化だけでなく、企業全体のアジリティと対応力を高め、ビジネス競争力や企業価値を向上させるための取り組みとも言えます。
DevOpsは、システムの信頼性と安定性が向上することで、顧客からの信頼を獲得しビジネス価値の創出に貢献するだけでなく、優秀な人材の採用や企業文化の革新など、市場における企業価値を高めることにも繋がっていきます。
4. DevOpsを始める時のポイント
DevOpsを始める際には、文化的な変革、専門知識を持ったチームの組成、および効果的なテクノロジーの活用という三つの重要な軸に焦点を当てることが重要です。
段階的な導入と文化の醸成
DevOpsの導入は、一気に全てを変えるのではなく、段階的に進めることがポイントです。小規模なチームやプロジェクトから始め、小さな成功を積み重ねて徐々に他のプロジェクトやチームに拡大していくことが効果的です。
また、この過程でDevOps文化の醸成も重要であり、継続的な改善と学習を重んじる文化を育て、チーム全体が協力し合いながら導入を進めていく必要があります。
リスクを恐れずに新しいアイデアを試すことが奨励される環境を作ること、チーム間のサイロをなくして協力する風土を醸成することが、持続可能なDevOpsの実践へと繋がります。
専門知識を持ったチームの組閣
DevOpsの実践には、特定の専門知識を持ったチームが不可欠です。中でも重要なのがSRE(Site Reliability Engineering)とCCoE(Cloud Center of Excellence)のチームです。
SREチームは、システムの信頼性を高め、大規模な運用自動化を推進することに特化した専門組織です。インフラからアプリケーションに及ぶ一元的なサービス監視、高度なトラブルシューティング、迅速な課題発見や改善といった運用タスクに加えて、継続的インテグレーション(CI)や継続的デリバリー(CD)、インフラストラクチャーをコード化するプロセスの管理と最適化を担います。SREの産みの親と言われるGoogleでは「SREはDevOpsというインターフェースの実装クラス」と表現するほど、SREはDevOpsの中核をなす存在です。DevOpsとSREの関係性については、sreakeで活躍するエンジニアが以下で詳細に解説していますので、ぜひご覧ください。
一方、CCoEは組織全体のクラウド戦略とガバナンスを担い、クラウド技術のベストプラクティスとポリシーの策定、クラウドリソースの効率的な利用を目指します。
CCoEチームは、クラウドサービスの選定から管理、最適化までを支援し、クラウド技術に関する深い知識を持ってほかチームへの技術導入や支援を行います。
SREやCCoEはDevOpsに関連するツール・プロセス・テクノロジーを最適に活用するための核となり、これらのチームによる専門的な支援やリーダーシップがDevOps導入の成功に不可欠です。
効果的なテクノロジーの活用
DevOpsの成功は、適切なツールとテクノロジーの選定にも依存しています。継続的インテグレーションと継続的デリバリーを支えるツール、効率的なモニタリングとアラーミングシステム、そしてインフラストラクチャーをコードとして管理するツールの導入が、DevOpsの基盤を形成します。
また、開発者プラットフォームとしての高度なIDEや、スケールやプロビジョニングが容易なクラウドサービスの採用など、SaaSを効果的に活用することで開発と運用のプロセスが高度に自動化され、リリース頻度の増加や開発者体験の向上に繋がっていきます。
これらのポイントに基づき、組織はDevOpsを段階的かつ戦略的に導入し、開発のスピードとシステムの信頼性を向上させると共に、ビジネスの競争力や開発者体験を高めることができます。
DevOpsの取り組みは、単なる技術の導入を超え、組織の文化とプロセス全体の変革を意味し、持続的なビジネス価値創出に対する投資となります。
5. DevOpsに関連する技術
DevOpsに関連する技術や組織については、以下のような先進的な取り組みや技術が注目を集めています。これらは、DevOpsの実践をより効率的かつ効果的にするために欠かせないものとなっています。
CI/CDパイプラインとバージョン管理
継続的インテグレーション(CI)と継続的デリバリー(CD)は、DevOpsの核となるプラクティスです。Jenkins、GitLab CI、GitHub Actionsなどのツールを活用して、コードの変更を自動的にビルド、テストし、安定したバージョンを自動的にデプロイします。これにより、開発サイクルが加速され、より頻繁にリリースが可能になります。
また、バージョン管理システムではGitが業界標準として広く採用されており、GitLabやGitHubは、コードのバージョン管理だけでなく、IDEとAI機能を統合したコード自動生成など、エンジニアの生産性向上のための機能やプラットフォームも提供しています。
コンテナ技術・オーケストレーション・サービスメッシュ
コンテナ技術はDevOps組織のアプリケーション開発にとって重要な技術であり、Dockerはアプリケーションを容易にパッケージ化し、複数の環境で簡単に動作させるための代表的なツールです。Kubernetesのようなオーケストレーションツールを用いることで、これらのコンテナを効率的に管理し、自動でデプロイやスケーリングを行います。また、Istioのようなサービスメッシュは、複数のコンテナで構成されたマイクロサービス間の複雑な通信を管理し、セキュリティやリソースの使用を最適化することが可能です。
オブザーバビリティ
システムの状態をリアルタイムで把握し、迅速な問題解決を可能にするため、オブザーバビリティは非常に重要です。インフラからアプリケーションレイヤまで一元的なダッシュボードでパフォーマンスを可視化することで、運用と開発の両チームがシステム状況を把握し、課題に対して迅速に対応することができます。Prometheus、Grafana、Elasticsearchといったツールは、ログ、メトリクス、トレースを収集できます。また、DataDogやNewRelicといったAll in One型のSaaSは、複雑なマイクロサービスや様々な種類のインフラに対しても簡単に導入を進めることができます。
IaCと自動スケール、自動復旧
インフラストラクチャをコードとして管理するIaC(Infrastructure as Code)は、TerraformやAWS CloudFormationを用いて実現されます。インフラのセットアップと変更が自動化され、再現性と一貫性が保証されることで、開発や運用の両チームにとっての構成管理が容易になります。また、クラウドインフラを積極的に活用し、自動スケールや自動復旧の仕組みを導入することで、システムの耐障害性や可用性を向上させ、運用効率の向上を目指します。
コミュニケーションツール
プロジェクトの成功は、効果的なコミュニケーションに大きく依存しています。Confluenceはドキュメント管理と知識共有のためのツールであり、JIRAはプロジェクトのタスクやスケジュール管理に大きな効果を発揮します。
SlackやMicrosoft Teamsのようなメッセージングツールは、開発や運用のチーム間で即時コミュニケーションを促進し、プロジェクトの状況や障害への対応をリアルタイムで共有することができます。
生成AIによる開発アシスト
AIの進化により、プロジェクトのさまざまな部分においてAIによるアシストが可能になっています。GitHub CopilotやGoogle CloudのDuet AIのようなツールは、コードの自動生成を行い、開発者がより効率的にプログラミングを行えるよう支援します。また、Amazon Qなどクラウドサービスのコンソールで操作支援や設計のアシストをしてくれる機能も続々と登場しています。これらのAIツールは開発者がより効率良く業務を進め、創造的な作業に集中できるような環境を提供します。
DevOpsにおけるこれらの技術や取り組みの積極的な採用が、開発の速度とシステムの信頼性を向上させるだけでなく、開発者体験の向上にも繋がっていきます。
6. DevOpsに関する事例
DevOpsを実践している具体的な事例もご紹介します。
株式会社ビットキーでは、kubernetesのためのCICDツールで、特にCDのためのツールであるArgo CDを導入しています。バージョン管理ツールであるGitを信頼できるソースとして、Gitリポジトリでインフラやアプリケーションコードを管理し、変更がArgo CDによって自動リリースされる仕組みを構築しています。こうしたCDの取り組みにより、以前は約2時間程度かかっていたリリースを、約5分程度にまで短縮したことが報告されています。
株式会社Wantedlyでは、SREがシステム基盤の高度な運用管理をし、かつDevOpsを実践するためのプラットフォームを整備する活動を実施しています。SREはシステム基盤の信頼性と開発者の生産性にコミットし、開発プラットフォームをサービスとして各チームに展開するという取り組みを行っていることが報告されています。
さくらインターネット株式会社では、既存システムを信頼性高く維持運用しながらも、次のビジネスに向けた機能リリースなどを迅速に行うため、SREチームを発足してDevOpsを実践しています。
SRE室を立ち上げ、kubernetesを用いたアプリケーション基盤やCICDなどの導入を進めていることが報告されています。
7. Sreakeでできること
Sreakeは、DevOpsの取り組みに重要とされるクラウドネイティブ、マイクロサービス、自動化、オブザーバビリティツールなどに関する高度な技術知識を持つエンジニアを多数擁しています。
また、これまで多様な業界の多くのお客様に対し、DevOpsで重要とされる開発ツール導入や、SRE/CCoEチームの組閣などを実施しております。
DevOpsに関するコンサルティング、 専門組織の組閣、使用するツールの導入や技術的なご相談など、DevOpsを推進する活動に関して全般的にご支援しています。
ご質問やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。