【トヨタ自動車株式会社様】製造現場がワンクリックで使えるAIをインフラで支援。トヨタとスリーシェイクの「現場が主役のDX」への挑戦とは。 | 活用事例

2023.7.11

(画像左)トヨタ自動車株式会社 生産デジタル変革室 AIグループ グループ長 後藤 広大様 
(画像右)株式会社スリーシェイク SRE, チームリーダー 戸澤涼

課題
・製造現場が主導のDXを推進するために、AIプラットフォームを内製化したかった
・社内開発したAIのシステム化が上手くいかなかった
・インフラ構築・運用だけでなくナレッジ移転まで依頼できるパートナー企業を見つけられなかった
決め手
・Google Cloudのパートナー企業として、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社から紹介された
・ナレッジを共有しながら伴走支援してもらえた
・Kubernetesの構築・運用支援もサービスに含まれていた
効果
・Webアプリケーションの追加実装で、AIモデルの作成と更新にかかる時間を約8割カットできた
・AIの活用が進んでいなかった製造現場でもワンクリックで使えるようになり、AIを活用した検査の自動化が実現した
・AIプラットフォームを1つのシステム環境に統合でき、サーバの数だけかかっていた設備投資や保守コストを大幅に削減できた

国内外に生産拠点を置き、自動車の開発から製造、販売まで手がけるトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)。同社では、AIプラットフォームの内製化に取り組んでおり、スリーシェイクのSREエンジニアが支援したのは、KubernetesやGoogle Cloudを使用したハイブリッド環境の構築やAIのシステム化だ。

KubernetesやGoogle Cloudを扱うには高度なインフラ知識が必要で、日本で対応できるパートナー企業は少ない。トヨタでは、AIのシステム化が上手くいかず課題を抱えていた。また、開発を丸投げするのではなく、ナレッジを移転しながら一緒に開発を進めるパートナー企業を求めていたという。

スリーシェイクは、SREの総合支援サービス「Sreake(スリーク)」を通して、アーキテクチャの検討から設計、開発、内製化支援に携わった。SREエンジニアの戸澤と共に、製造現場でAIの活用を推進する責任者の後藤様にプロジェクトの成果や率直な感想を伺った。

目次

  1. 現場主導のDXを目指すも、システム化に課題
  2. 依頼の決め手は、インフラ構築技術力と伴走支援
  3. 両社で議論を重ね、ハイブリットクラウドを実現
  4. 製造現場がワンクリックで使えるAIを開発
  5. 5年で70%の設備コスト削減を見込む
  6. 研修やドキュメント化によりナレッジ移転が進んだ
  7. 取り組みが評価されGoogle Cloud Next ’22に登壇

現場主導のDXを目指すも、システム化に課題

−AIプラットフォームを内製化しようと考えた理由を、教えていただけますか。

後藤

製造現場が主導でDXを推進するために、いつでもどこからでもAIにアクセスできる環境を作りたいと考えていました。そこで、データの一元管理がしやすいWebシステムを構想していました。

トヨタ自動車株式会社 生産デジタル変革室 AI グループ グループ長 後藤 広大様
 

通常、AIを活用するには専門スキルを持った人がデータを集めて解析して、システムに組み込んでデプロイする。そんなイメージがあると思います。しかし、1人の専門家が1年で実装できる件数は、1〜2件くらいまでなんです。会社全体で見るとそれでは非常に効率が悪くなってしまいます。
弊社は約7万人の従業員がおり、約半数の方が製造現場に関わっています。さらに組織体系を見ると、製造現場で多くの作業組が働いています。たとえ1年に1件でも、現場ごとに自分たちで実装できた方が、圧倒的に速く進みますよね。そこで、AIプラットフォームを内製化して、製造現場の人たちが使えるようにし、現場が主役でAI活用ができる仕組みを作りたいと考えました。

スリーシェイクに依頼をする前は、どのような課題をお持ちだったのでしょうか。

後藤

内製のAIシステムを自分たちで開発していたのですが、システムのスケールや運用面で苦労していました。
アジャイル開発で、コンテナ技術をつなげてシステムを作ったり、開発スピードに合うシステムのアーキテクチャを作り込んだりしていたのですが、スキル不足でなかなか上手くいきませんでした。
また、せっかく作るのであればモダンインフラで構成したいと考え、Google Cloudを活用した高度なインフラ構築・運用ができるパートナー企業を探し始めました。

Google Cloudを導入された理由について、教えてください。

後藤

理由は2つあります。1つ目はハイブリッドクラウドを構築しようとした際にGoogle Cloud のサービスの一つであるAnthosを使うことでクラウドとオンプレ2つのクラスターを一元的に管理できるので、Kubernetes Clusterの管理が楽になるという点です。
2つ目は、GPUにかかるコストが安い点です。製造現場の方々は、1分1秒を無駄にせず作業をしているので、高い料金を払い続けるのは弊社のポリシーに合いません。生産本部もコスト面は厳しく見るので、Google Cloudを選択しました。

依頼の決め手は、インフラ構築技術力と伴走支援

スリーシェイクに依頼を決めたのは、どのような経緯があったのでしょうか。

後藤

実は、スリーシェイクの前に、ご協力をお願いしていた会社がありました。その会社とGoogle Cloudを活用したプロジェクトを2カ月ぐらい進めていたのですが、 技術力が足りておらず思うように進みませんでした。その際、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社の担当者に相談したところ、Google Cloudのパートナー企業であるスリーシェイクを含む2社をご紹介いただきました。
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社の担当者からは「スリーシェイクの方が一つのチームとして伴走してもらえる」とうかがっており、スリーシェイクにご相談しました。
当初、システムベンダーに依頼することも検討したのですが、開発を丸投げして運用保守もお願いすると、後からの変更に毎回費用が発生します。また、ちょっとした変更の度に仕様書を作成する必要があるため、本当に欲しいものが作れなくなると考えました。
私たちはコンテナ技術の一つであるKubernetesを活用していますが、日本でKubernetesの構築・運用支援を行っている会社は多くありません。さらに、Kubernetesの構築・運用だけでなく、ナレッジ共有までを依頼すると嫌がられることが多くて。
スリーシェイクなら、Google CloudやKubernetesの構築・運用サポートも含まれていて、ナレッジを共有しながら伴走してもらえる点が、われわれのニーズとマッチしていると思いました。

両社で議論を重ね、ハイブリットクラウドを実現

プロジェクトは、どのように取り組んだのでしょうか。

後藤

スリーシェイクには、開発中のアプリケーションをKubernetes化するところから始めていただきました。Kubernetesを使うなかで、アプリケーションの根幹となるアーキテクチャを一緒に考えながら、データベースとの通信方式、ログの取り方やまとめ方などを整理していただいたのがスタートです。さらに、アプリケーションの構成や、ハイブリッドクラウド化に向けたWebAPIの設計・開発などにも取り組んでいただきました。

 

 

戸澤

もともと、オンプレミスで動かしているコンピュータを最大限で使いつつ、足りない分はクラウドを活用したいとご要望をいただいていました。プロジェクトの発足当初、後藤様が構成図を作成されていたので、私は現場のヒアリングから始めました。

株式会社スリーシェイク  SRE, チームリーダー 戸澤涼
 

Google Cloudで、オンプレミスと同じように動かすには何が足りないか、数カ月かけて話を詰めていくと、Webアプリケーションの追加実装も必要ということがわかったのです。そこで、トヨタの開発メンバーと議論しながら設計を進め、実装していきました

製造現場がワンクリックで使えるAIを開発

プロジェクトの成果について、教えてください。

後藤

Webアプリケーションの追加実装による効果が非常に大きいと感じています。新しいAIモデルを作って更新するのにかかる時間を、8割ほどカットできました。Webアプリケーションの追加実装で簡単にAIモデルが作れるため、AIエンジニアが付きっきりになる必要がなく、実装の効率が非常に良くなっています。
ワンクリックでAIを使えるようになったので、機械学習の実装に抵抗がありAIの活用が進んでいなかった製造現場でも、少しずつ着手できるようになりました。Web上のアプリケーションにアクセスするだけで、Google Cloudで計算したデータを渡せるので、製造現場の方々に使っていただけるようになったのが大きな成果です。
実際、AIを活用してさまざまな検査の自動化ができるようになりました。例えば、高岡工場の生産ラインでは、私たちが開発したアプリケーションで作ったAIモデルを検査工程で活用しています。バックドアのガラスの貼り付けに使った接着剤を、隙間や見栄えの悪さなどの異常がないかAIが検査することで、省人化の効果が見られました。
他には、監視カメラとAIを組み合わせて、設備の稼働状況を検査しています。設備の不具合が起きたまま稼働させると、生産に悪影響を及ぼしたり、安全上の問題が生じたりするので、そこをAIで検査しています。
このようにAIを活用すると製造現場の省人化につながり、財務効果も現れました。

5年で70%の設備コスト削減を見込む

どのような財務効果が現れたのでしょうか。

後藤

設備投資に関してお伝えすると、AIプラットフォームを1つのシステム環境に統合できたのが大きかったです。従来だと、すべての工場にオンプレミスでGPU搭載の高性能サーバを置く必要がありました。それだけで初期投資額がかなり高くなってしまいます。

 

現在はハイブリッドクラウドで対応していて、オンプレミスのサーバを一つだけ設置し、足りない分はクラウドを使用することにしました。これにより、5年で7割くらいの投資削減につながる見込みです。
また、サーバの数だけかかっていた保守費用が単一になるので、かなりの削減になっています。

製造現場で、AIアプリケーションはどのように広まっていったのでしょうか?

後藤

実は、AI活用の研修が現場主導で行われるようになったんです。今までは、製造現場向けのAIのアプリケーションがデスクトップ型だったこともあり、使用するのに投資が必要で、習熟度にばらつきが見られました。しかし、内製Webアプリケーションならまとまった人数に対して教えやすく、短時間で研修ができるので、習得しやすくなった点も効果の一つだと思います。

 

 

戸澤

最近は、現場のメンバーの方々が率先して課題の発見や実装までできていて、すごく嬉しいなと思っています。今まで取り組んできたものを現場のメンバーの方々に任せていくという流れが、とても良いですね。

研修やドキュメント化によりナレッジの移転が進んだ

スリーシェイクとの仕事で、良かったことはありますか?

後藤

戸澤さんをはじめとしたスリーシェイクのSREエンジニアの方々から、開発のポイントや技術的な知見を教えていただきました。われわれにもスキルが身についていかないと困るなと思っていたので、非常に助かっています。
SREの考え方は書籍で読んだことはあるのですが、実際のところはよくわからなくて。弊社でも実施できている部署は少ないと思います。今回のように、専門的な知識を教えていただきながら実装していくプロセスは、とても勉強になりました
こちらから「こういう構成にしたい」と伝えたとき、「言われた構成で進めます」と言うシステムベンダーは多いと思うのですが、スリーシェイクは「こっちの方法がいいですよ」とご提案いただけたのが助かりました。技術的なトレンドに関しても、タイムリーに取り込めたのが良かったです。

スリーシェイクの仕事のスピード感はいかがでしたか。

後藤

アジャイル開発のスクラム手法を採用し、2週間に1回レビュー会をしてユーザーにチェックしてもらい、開発サイクルを高速で回していました。

出典:工場のための AI Platform を内製 〜 ハイブリッド クラウドによる高効率な GPU 活用
 

その開発サイクルだと、2週間に1回のペースで内容が変わるので、仕様書を作っていないんですよ。いつか作らないといけないんですけど、いつの間にか1年くらい経ってしまって(笑)。戸澤さんたちと開発する途中で、データベースの構成やアプリケーションのアーキテクチャを変えたのですが、柔軟に対応していただけました。いつもレスポンスが早く、どのような状況でも一緒に取り組んでくださるのは、本当に助かっています。

プロジェクトで苦労されたことはありましたか。

後藤

われわれにとっては新しいことに取り組んでいたので、勉強が追いつかず大変でした。その都度、戸澤さんたちに聞きながら進めていましたね。

戸澤

トヨタのエンジニアの方々は、普段は工場で機械を触っている中で、ITエンジニアの世界に来ていただいた、という背景がありますので、なるべく丁寧に認識合わせをさせていただきました。
あとは、使用するサービスの内容や目的をドキュメント化して残し、共有することを意識していました。

 

 

後藤

次世代につなげていくために、ドキュメント化は非常に助かりました。ドキュメントを読んで勉強してもらえれば、モダンインフラやアプリの基礎を習得できるので、ナレッジ共有の観点でも非常に役立っていますね。
あとは、ドキュメントの内容について技術的なレクチャーを受けたり、その技術を他のメンバーに伝える方法も教えてもらったりしました。社内研修でも活用させてもらっているので、とても助かっています。アプリケーションの開発にとどまらず、人材育成にも生かせましたね。

 

 

戸澤

ありがとうございます。スリーシェイクとして、ドキュメントを残すことは大事にしています。今回は特にドキュメント管理が得意な担当がいたため、その姿勢が案件にも反映できていると思いました。

取り組みが評価されGoogle Cloud Next ’22に登壇

プロジェクトを進める中で、嬉しかったことはありますか。

後藤

スリーシェイクの方々にご支援いただいたおかげで、Google Cloud Next ’22というGoogleのイベントに登壇させていただきました。参加することでチームのモチベーションが上がり、社内の見え方も変わったようでした。ご支援がなければイベントに参加できなかったと思います。

当日の登壇内容は、こちらからご覧いただけます。

これからの目標を教えてください。

後藤

工場で働くメンバーに使っていただくために開発したので、利用者数をさらに拡大していきたいと考えています。今は画像に特化したサービスを展開していて、AIプラットフォームに取り込めていないものもあるので、対応数を増やしていきたいですね。
あとは、グローバル拠点でも活用できるように、体制を整備したいと考えています。それがクラウドを使うメリットの一つでもあるので。

今後、スリーシェイクに期待していることを教えてください。

後藤

引き続き伴走していただきながら、クラウドネイティブなアプリケーションだけでなく、 社内のさまざまな課題に対して一緒に解決していただければと思います。

 

 

戸澤

ありがとうございます。後藤様のマネジメント力が高く、各所にいろいろと調整してくださったおかげで、プロジェクトが上手くいきました。トヨタのエンジニアの方々には私たちの知らない情報を説明する時間を作っていただき、何か相談しても一緒に考えてくれる体制があったからこそ進められた、と思っています。

スリーシェイクのSreakeというサービスは、どのような会社に合うと思いますか。

後藤

内製でシステムやアプリケーションを作ろうとしている企業の方に、ぜひおすすめしたいですね。逆に、外注ですべてお願いしたい場合は、おすすめできないかもしれません。おそらく、スリーシェイクが掲げているサービスのコンセプトからも外れていると思うので。トヨタは技術の手の内化という考え方を大切にしていて、それはデジタルの分野でも変わりません。自分たちに必要なものは自分たちで作るべきだと考えているので、今回使わせていただいたSreakeは非常に魅力的なサービスでした。

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